忍者ブログ
遥飛蓮助の一次創作ブログ
2014/08/21/Thu
『天使は屋上で転生する』
 転生。次の世で別の形で生まれ変わること。
 今の世に転生しても、それは転生じゃないだろ。再び存在するから転生なんじゃないのか。
 そう考えた自分を疑わなかった。正論だと思った。でも自分の足を止めることは出来なかった。僕は、廃ビルの屋上に向かって階段を上っていた。
 一段一段上る度、僕は自分の足を、自分自身を説得する。たかがネットの噂だろ。新月の夜に天使が……そもそも、天使なんているわけないだろ。目を覚ませ。現実逃避で日頃の憂さを晴らしたいなら、もっと他のことをした方が有意義じゃないか。だから、どうか、止まってくれ。
 その扉を開けないでくれ!
 扉の向こう側が眩しくて、思わず両腕で顔を庇った。噴き出した汗が目に入って痛いが、構うものか。
 それよりも、今日は新月だろ。新月なのに、なんだあの満月は?
 眩しさに慣れた目を擦り、僕はもう一度、新月の筈の満月――スーパームーンを見た。
 写真でしか見たことがないそれは、まるで映画から飛び出した巨人さながら。圧倒的な存在感を肌で感じると同時に、体が恐怖に打ち震える。顔が恐怖でひきつり、叫び声が頭の中を反転する。
 今すぐ逃げないと、あの巨星に殺される!
 だが自己防衛より恐怖が勝った僕は、開け放った扉の前で腰を抜かしてしまった。なんとか四つん這いの姿勢になると、そのまま背中を向けて逃げようとした。
『!!』
 でも、出来なかった。誰かが、僕の名前を呼んだからだ。
 僕は四つん這いのまま振り返ると、そこに、
「……いた」
 スーパームーンに気をとられていたせいか、噂の天使がいたことに気が付かなかった。
 いや、天使もどきと言った方が良いかもしれない。一対だったはずの翼は光の粒子のように舞って殆ど原型を保っておらず、白く透き通っていたはずの髪も半分以上黒く染まっていた。服もだ。シルクのように軽いのだろう。風に靡くように脆く崩れていて、下から喪服のような、黒い生地が所々で顔を出している。
 不思議と巨星への恐怖が収まりつつある中、例の天使が笑っているのが見えた。腰を抜かした僕を嘲笑っているのだろうか。堕ちた天使、堕天使なら話が早い。そうか、あれは堕天使か。
「ひっ…ひひっ」
 今まで天使の存在を否定していた頭が、非現実を目の前にしておかしくなったらしい。そのまま座り込み、ひきつった笑いが込み上げた。
 瞬間。
『!!』
 天使の口が、僕の名前を描くように動いた。
「!」
 出かかった笑い声が喉に引っ掛かり、胃の中のものへ逆流を促しにかかる。必死に飲み込むと、恐怖が爪先から頭のてっぺんに向かって走り、引いた汗がぶり返す。
「あ……あ、ああ、あ」
 やっぱり来なければよかった。あの時逃げていればよかった。あの扉を開けなければよかった。
『!!』
 天使が僕の名前を呼んでいる。天使が天使の微笑みで微笑んでいる。
 僕の手で屋上から突き落とした彼女の顔で。

拍手

PR
COMMENT
お名前
タイトル
文字色
メールアドレス
URL
コメント
パスワード   Vodafone絵文字 i-mode絵文字 Ezweb絵文字




mail
Twitter
ヘキレキワアド(お題bot)
Design by Nijiko [SUCUREなオカメインコ]
忍者ブログ [PR]