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遥飛蓮助の一次創作ブログ
2015/04/13/Mon
(使用したお題:『なんでもない』・交じり合う)
(遅刻したけど今回は書ききったぞ!)


 頭が痺れる。呼吸ができない。熱い。爆ぜる。爆ぜる。爆ぜた。
 瞬間、女のくぐもった声。残念ながら首を絞めながらの趣味はない。だから残念なのは俺じゃなくて女の方。
 もう少し可愛く鳴けないのか。言いかけて首に女の両腕が回る。引き寄せられ、厚ぼったい唇が当たる。香水に汗の匂いが混じって気持ちが悪い。思わず顔をしかめる。女が笑う。
『どうしたの?』
『なんでもない』
 煙草が吸いたくなった。女の腕をほどくと、サイドテーブルに置いた財布から何枚か出して押しつけた。
『次の客からは、もう少しマシな演技しろよ』
 豚でもそんな鳴き方しねぇぞ。我ながら上手い事を言ったと思ったが、女はお気に召さなかったようだ。

 交じり合うには駆け引きとテクニックがいる。知らない奴は小僧と馬鹿にされ、蔑まれ、唾を顔に吹っかけられる。俺の場合は過去形だが。
 最初を思い出そうとすると、余分な唾液が煙草のフィルターを湿らせる。煙より先に唾を吐き捨てた。唾は血の色をしていた。あの女、なんて腕っ節だ。まだ熱っぽい頬を撫でた。
 唾。唾液。べっとりして気色悪いと思っていたそれを、甘く感じた事がある。最初の時だ。比喩でもなんでもなく。ましてや子供舌でもなんでもなく。いや、実際ガキだったけど。
 俺の唾液でベトベトになった煙草を踏み潰すと、パックを開けて中身を見た。さっきのが最後の一本だった。
 俺は大きく振りかぶり、握り潰したパックを投げた。隣の廃ビルの屋根に落ちる。程なくして、靄がかった視界に朝日が昇った。

 甘かったのは覚えているのに、髪が長かったのか短かったのか。つり目だったのか垂れ目だったのか。どんな声をしていたのかすら思い出せない。今だったら買える値段だったと思う。多分きっと。そんな女じゃなかったはず。男は過去を美化するのが得意だから。
 自分の口の中で舌を動かしても、歯の裏にこびりついた煙草の味しかしない。唾を飲み込んだ。胸がむかつく。
 交じり合うって感じじゃなかった。どちらかというと、貪ってた。自分の欲を飼い慣らせなかったから、どうしたってがっついちまう。どうしようもないガキだった。
 まさかそんな時に、あんな女に会うなんて。

 毒を流し込まれたのかと思った。とっさに女の舌を噛もうとして、未遂で終わった。毒でもなんでもない。ただの温い、砂糖水だった。
 甘い。甘い。甘い。頭が痺れる。呼吸ができない。熱い。熱い。熱い。死ぬ。死ぬ。死しにたい。
 ずっとこのままでいられるなら、死んでもいいと思った。そうせがんだのは女じゃなくて、俺の方だった。
『それはむりよ』
『だったら、いっそ、ころしてくれ』
 情けない声で懇願した。惨めに生きるより、死んでカラスの餌になった方がマシだと思っていたから。
『それもむりだわ』
『どうして』
 女は答えをくれなかった。それから、それっきりになった。

 硬貨と引き替えに煙草を買い、喫茶店で不味いナポリタンにありつく。金がないから仕方なく頼んでるんだと自分に言い聞かせると、口の中が腐ったトマトになった。
 堅いパスタを奥歯で噛む。頬の痛みが蘇って悶えた。ついでに殴ったヤツの顔も。
 でも、あの女の事は、あの女でないと、思い出せそうにないらしい。
『なんでもないことよ』
 煙草に火をつける。口の中に煙を溜め、煙草で作った隙間から吐き出す。
 なんでもないこと。それが分かったら、俺に被るガキの皮が剥けるんだろうか。
 いや、またあの女に会うまで、分からないふりをしていよう。あいつが教えてくれないと認めないし、知るもんか。我が儘はガキの特権だからな。

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