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遥飛蓮助の一次創作ブログ
2016/08/11/Thu
夢原さんは散らかっていると言っていたが、実際は部屋の右手にある応接用のテーブルに、分厚いファイルや仕分け途中らしい書類の数々が雑然と積んであるだけで、部屋自体に乱雑な印象はなかった。
 テーブル側の壁に残りのファイルをしまった棚。左手に流し台と小さな冷蔵庫。壁には顕微鏡で見た雪の結晶のような、どこかの地表を撮った白黒写真のようなものが何枚か飾られていた。
 彼女の机は部屋の奥、テーブルを挟むように置かれたソファの後ろにあった。
 机の上にパソコンのディスプレイとキーボード、大きめのタブレットが置いてあり、机の下から本体のモーター音が響く。ディスプレイは両手を広げても足りないぐらい大きく、キーボードは文字がすべて剥がれていて、長年愛用しているのが分かるほど表面が光っている。彼女の見た目に相応した女の子らしい小物や、ぬいぐるみの類はなかった。
 唯一女の子らしいといえば、『不思議の国のアリス』のモチーフが動くスクリーンセーバーくらいで、白ウサギが懐中時計の周りを走っていた。つられて僕も自分の腕時計を確認する。
 午後五時三十八分。残りあと、二十二分。
「今日はオフだったので、ちょっとファイルを整理してたんですよー。普段片付けに割く時間がなくてですね。朝からやってるわりになかなか終わらないなんので。これでもわりと片付いた方なんですよ?」
 こちらが尋ねなくても、彼女は勝手に喋りながらテーブルの上の物を寄せていく。
 人の物に触れるのは憚られたが、用件を伝えて早く帰りたかったのと、彼女が自分の身丈を度外視してファイルをまとめて棚にしまおうとしていたので、僕も片付けを手伝うことにした。
 普通の人ならファイルを落としたら拾ってしまい直す程度のことでも、彼女の場合、手元が狂った拍子にファイルの下敷きになるというハプニングが起こりそうだったからだ。それぐらい見た目が幼く、とても『トポグラフ・マッパー』なる仕事をする人には見えない。
「手伝ってもらっちゃってありがとうございます。どうぞ座ってください」
 片付けが終わると、僕は勧められるがままソファに座った。夢原さんも机のタブレットを持ち、指で叩きながら反対側のソファに座る。慣れた手つきで画面を横にはじく姿が小学生じゃなければ、バリバリ仕事ができる女性に見えたかもしれない。
(タブレットよりスケッチブックの方が似合いそうだな)
 このくらいの歳の女の子だったら、どんな絵を描くのだろう。アニメのキャラクターか。好きな食べ物か。好きな動物か。それとも。
(それとも?)
 頭の隅に引っかかるものを感じた。『それとも』の続きが出ず、首を傾げる僕を夢原さんが不思議そうな顔で眺めていた。

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