忍者ブログ
遥飛蓮助の一次創作ブログ
2016/08/11/Thu
「どうかしましたか?」
「あ、いえ。なんでもありません」
 おそらく気のせいだろう。気を取り直して単刀直入に尋ねた。
「あの、トポグラフ・マッパーって、人の涙から地図を作る地図屋のことですよね。ネットで『人の涙から作った地図で、なくしたものが見つかった』って書き込みを見て、なにかの手がかりになればいいなと思って来ました。大事なものなのは分かるのですが、いつなくしたのか、どんなものだったのか思い出せなくて。その地図を使えば、僕の大事なものも見つかりますか?」
 さっき時間を確認してから、最低でも二分は経っている。残り二十分。このまま畳みかければ。
 夢原さんは僕を見つめた後、目を伏せてタブレットをテーブルに置いた。気の向けるような口調や振る舞いから想像できないくらい、静かな動作だった。
 背中に緊張が走る。
「人の涙から作った地図のことを『トポグラフィー・マップ』って言うんですけど、確かに落とし物を探すためって理由で来る依頼人の方はいますね」
 書き込みは本当だった。安堵を覚えて顔が緩む。
「失礼ですが、お名前を伺っても?」
「タカトシ、あ、スギウラ・タカトシです」
 夢原さんは両手を重ね、自分の膝に置いた。それから僕を見据え、落ち着き払った様子で口を開いた。
「スギウラさん。私は、あなたのご質問にお答えすることはできません」
(……え?)
 緩んだ顔が一気に強ばった。『できかねる』という譲歩した言い方ではなく、夢原さんはきっぱりと、『できない』と断言した。
「ど、どういう、こと、ですか?」
「すみません。そのご質問にもお答えすることはできません」
 絞り出した声に対し、彼女は助け船も、すがる藁も投げてはくれなかった。それはつまり、彼女の力でも、僕の大事なものを探すことができないということか。
 予想外の事態だ。緊急事態だ。僕は藁の代わりに、手汗をかく両手で拳を作る。頭の中で鳴り響く警告音と、彼女のパソコンから聞こえるモーター音が重なってやかましい。
 どうしよう、どうしよう、どうしよう。彼女も駄目だったら、僕は、僕はどうしたら。
「お答えすることができないのは、あなたの大事なものは、あなた自身が探すからです」

拍手

PR
COMMENT
お名前
タイトル
文字色
メールアドレス
URL
コメント
パスワード   Vodafone絵文字 i-mode絵文字 Ezweb絵文字




mail
Twitter
ヘキレキワアド(お題bot)
Design by Nijiko [SUCUREなオカメインコ]
忍者ブログ [PR]