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遥飛蓮助の一次創作ブログ
2016/12/13/Tue
人の涙で作る地図とは、裏を返せば、人の思い出や記憶を凝縮した涙でなければ作れない。目を引いたのはその書き込みぐらいで、ユリカは今度こそ読むのを諦めて画面を閉じた。
 自分がほしいのは過去ではなく未来。思い出ではなく、目標や夢なのに。自分がこうしている間にも、あの二人はどんどん先に進んでいるのに。
 正確には二人ではなく、三人。名前も聞けずに会えなくなってしまったが、今も夢を追いかけているのだろうか。
 ユリカは携帯電話の画面を開き直すと、例の書き込みを読み返した。書き込みをした人の地図には、もう会えない大切な人との思い出が染みこんでいるのだろう。
 でも、とユリカは思った。自分はカナコにも友達にも、夢原にも会いに行ける。その人が生きている限り、会いたいと思ったら会いに行けるのだ。
 本人の住所らしき書き込みのところまで遡ると、一旦画面を閉じてバッグに放り込む。脱ぎっぱなしの服とゴミの袋で散らかった部屋から財布を見つけ、同じようにバッグに放り込んだ。
 夢原に会いたい。いや会わなければ。彼女が自分の望むものを作れなくても、あの人に会える可能性が少しでもあるなら、自分は夢原に会わなければいけない気がした。
 思い出になる前に、あの人に会いたい。
 ユリカはクローゼットから外出できそうな服を出したり引っ込めたり、化粧品をとっかえひっかえしながら、慌ただしく身支度をした。

 夢原に出会ったのが秋口の夜なら、あの人に出会ったのもまた秋口の夜。高校三年生の時だった。
 あの頃は男友達数人で学校をサボり、ゲームセンターやカラオケ屋に入り浸る毎日だった。田舎としては途中半端なだけあり、娯楽施設は充実しているとは言えなかった。それでも深夜の公園で友達と馬鹿みたいに騒いだり、先生や親の愚痴を言い合ったりするだけで胸がスカッとした。警察に補導され、両親にこっぴどく叱られても、友達と過ごす時間の方が大切だった。
 自分たちを阻む物は蹴散らしてしまえ。高校を卒業したら晴れて自由の身なのだから。
 その日も学校をサボってカラオケ屋に入り浸り、日付が変わるまで公園で騒いだ後に解散。ユリカは友達と別れてアーケード商店街を歩いていた。不況の煽りを受け、ほとんどのお店は閉めたシャッターの上に『テナント募集中』や『貸物件』の張り紙が貼ってあった。
 両親のいる家には帰りたくなかった。とはいえ、未成年がゲームセンターやカラオケ屋で入り浸るには時間が限られている。朝まで公園にいられるのは夏ぐらいまで。いくら反抗的でも、寒い思いをしてまで突っぱねたくはなかった
 そんな時。あの人は張り紙を貼ったお店の前で、ギターを鳴らして歌っていた。歌っていた曲が自作のくさい歌詞を並べたものではなく、CMでよく聴く曲だった。
 肩にかかる位の黒髪が、ギターを鳴らす度に揺れる。歌いながら、時々鼻をすする仕草が可愛いと思った。
 顔の造形は芸能人の誰かを崩した感じがして、けして美人とは言えなかったが、誰もいない場所で堂々と歌い上げる姿が立派だと思った。途中半端な自分にはない、信念を持っている気がした。

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