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遥飛蓮助の一次創作ブログ
2016/12/13/Tue
(か、可愛い……)
 大人の女性が見せる、子どもっぽい反応。特に夢原は見た目が見た目だ。相手によってはたまらない反応だろう。今まで接してきた中で一番可愛い夢原に満足したユリカは、歯を見せて軽快に笑った。
「じゃ、これから考えようよ。もし夢原さんに気になる人ができたら、あたしも応援するしさ」
「そう上手くいけばいいんですけど……あ、そろそろご依頼を確認しないと日が暮れてしまいますね」
 気を取り直した夢原が強引に話を逸らしたのではなく、ユリカの雑談混じりのいきさつが「もうこんな時間!?」と驚くくらい掛かってしまったからだ。 
 そして、夢原の事務所には時計がなかった。パソコンか、もしくは彼女が操作しているタブレットの時計で事足りるからだろう。ユリカも携帯電話で時計を確認するため、部屋に時計はない。
「ハヤマ・ユリカさん。今回のご依頼は、学生時代に出会ったある方に会い、その方との思い出をトポグラフィー・マップにする、ということでよろしいですか?」
 ユリカが二つ返事で了承するのを確認すると、夢原は「かしこまりました」と笑顔で返した。
「ですが、これからお名前を存じ上げない方を探すんですよね?」
「うんまぁ、それがネックなんだよねー。自分でも調べて見たんだけど、あたしの地元、ローカルで活躍してるミュージシャンが多くてさ。もしかして無謀だと思った?」
「そんなことはないです、けど……ちょっとは」
 思い出の詰まった涙をマップにするのではなく、これからマップにする素材を探しにいくのだ。多くの依頼を受けてきた夢原も及び腰になるのは当然だ。でも、だからこそとも思っていた。
「あたしね、あの人に会えたからって、今の状況がぜんぶ良い方向に行くなんて思ってないんだ。急に目標や夢が出てくるわけないってことも知ってる。今のところ、友達や夢原さんには会いたいって思えば会えるけど、その人に関しては、会える可能性が低いからって会いに行かないのも癪に触るっていうか。ぶっちゃけ、あたしのプライドの問題なの」
 かつての自分がはねっかえりだったのは、故郷のような中途半端な自分を認めたくなくて、周りの環境のせいにしていたから。かつての自分がなりゆき任せだったのは、自分のいる環境を変えようとしなかったから。どの自分も、自分で考えることを放棄していた。
 たとえあの人に会えなくても、自分で考え、自分で行動してあの人に会いに行った思い出があれば、この先の人生が夜のように真っ暗でも、胸を張って進んでいけるような気がした。
「会いに行かないまま諦めるなんで絶対にイヤ。もし夢原さんに無理って言われても、どんな手段を使ってでも絶対に会いにいくつもりよ?」
 腕組みをして意志の強さを示すと、夢原は肩を振るわせて笑い出した。
「ちょっ、そこは笑うとこじゃないじゃーん」
「ふふ、すみません。ハヤマさんにとって、その人はそれだけ大切な存在なんだなって思ったんです」
「だったら余計笑わないでよー!」
 わざと唇を尖らせる真似をしたが、本当は『大切な存在』という言葉がこそばゆかった。好きな人や、恋人に使う表現だと思っていた言葉だったから。ユリカは、その人への想いを改めて感じた。恋でもない。言うなればそれは、尊敬。その人に会えるのなら、火の中だって水の中だっていける気がした。
 最終的にユリカも釣られて笑い、一通り笑った後、「あ、そういえば」と思いついたように声を出した。
「夢原さんってさ、ウニ好き?」
「はい。好きです」
「じゃあ食べにいかない? あたしの故郷まで」
 ユリカは歯を剥き出しにして笑うと、夢原は突然の申し出に、「はい?」と目を丸くした。

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