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遥飛蓮助の一次創作ブログ
2016/12/22/Thu
『みなさんはじめまして。クサカベ・トモさんといいます』
 タクシーが走るのと同時に、ふにゃっとした柔らかい声がラジオから聞こえた。海沿いの田舎の風景を眺める夢原から視線を外し、ユリカも反対側の窓から景色を眺めた。
『主にストリートライブを中心にギターの弾き語りを行っているクサカベさんですが、いつ頃から音楽の世界に入ろうと思ったんですか?』
『実は思ったことないんですよ。そもそも両親はこの世界に入ることに大反対してましたし』
『そうだったんですか。やはり辞めようとか思ったりも?』
『そうですね。実家暮らしだったのも大きかったと思います。当時は昼間働いて、深夜にアーケード商店街で一人ライブとかしてましたから』
 深夜にアーケード商店街で、一人ライブ。
 ユリカはふと夢原の方を見ると、夢原もユリカを顔を見た。夢原の顔の半分は驚きで、もう半分は真顔でできていた。
『二足のわらじは大変だったでしょうね』
『はい。しかも両親から、お前の顔は芸能人の誰かに似ているから絶対売れないとか、そもそも歌下手だし、みたいなことも言われてて……』
「すみません運転手さんこのラジオ局ってどこにありますかこのゲストが出てる時間までにラジオ局に着くことってできますかできなくても軽く車ぶっ飛ばしてほしいんですけど」
 確証もないもないまま、ユリカは反射的に運転席に身を乗り出し、運転手にまくし立てていた。淡々とした口調に対し、運転手は気が弱い性格なのか「えっと、アーケード商店街の向こう側なので、今から飛ばしても間に合わないと……」と返した。
『自分で曲を作って、それを歌うのが怖くて仕方がなかったんですね。だから代わりにCMの曲ばっか歌ってました』
「いいからとっとと飛ばせよこら! やってもいねえのに諦めるとかマジありえないんですけど! あんたそれでも男かよ!」
「ハヤマさんっ、ハヤマさん落ち着いてください!」
 夢原は確証を得てから動くつもりだったのか。ユリカの剣幕に押されながら、ユリカを言葉で制しようとした。
しかし、ユリカは聞く耳を失っていた。構うことなく運転手に喰ってかかる。
「客が困ってんだからそれなりの対応しろよおらあ!」
「ハヤマさんお気持ちはわかりますがその流れは恐喝罪で負けるパターンです!」
『そのとき知り合った女子高生の子がいなかったら、今のわたしはいなかったと思います。わたしが両親から言われたこと話したら、自分のことのように怒ってくれて。今もはっきり覚えてます』
 私も覚えています、とユリカは頭の中で返した。
『自分がいいと思ったことをやればいい。やるのは親じゃなくてあんたなんだから、胸張ってやるべきだ。あんたにだってプライドはあるでしょって』
 胸を張って生きるべきなのは自分の方なのに、世の中のことを何も知らない学生がなんて口を利いていたのだろう。
『なかなか強気な子ですね。それからその子とは?』
『春の少し前から会えなくなってしまって……名前を聞いていなかったので、自分から調べることもできませんでしたし。元気だったらいいなあって思ってます』
 元気です。あなたのような目標も夢もないけど、元気でやってます。今あなたを探してこっちに来てるんです。声が聴けて、名前も知れて、本当によかったです。
『ありがとうございました。最後に曲紹介もお願いします』
『はい。それではお聴きください。クサカベ・トモで、夜の蝶』
「ハヤマさん!?」
 曲名が聞こえた瞬間、ユリカは夢原の制止を振り切り、タクシーのドアを開けて駆け出した。

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