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遥飛蓮助の一次創作ブログ
2016/12/07/Wed
事件とは、刑事が『しかし』と『だが』をふるいにかけ、真実を選別する作業だと思う。
 俺が鑑識課から刑事課へ戻ると、タカナシ・ソウスケはアンパンを咀嚼しながら捜査資料を読み返していた。
「む。おふぁえりなふぁい」
 部下にあるまじき挨拶の仕方に対し、可及的速やかに注意を促していた数ヶ月前の俺を思い出して、現在の俺は嘆息した。
「お前な……あまり変なことしてると、今に罰が当たるぞ」
「大丈夫です。まだ餡子は落としてませんから」
 俺は「じゃあ俺がお前に罰を落としてやろうか?」と言ってやる代わりに、こいつが警部補昇格試験に落ちた時、それみたことかと鼻で笑うことにした。
 だいたい、『三十代で警部に昇進する』という野望を掲げる大卒出のノンキャリアが、上司に敬意を払わないのはいかがなものだろう。俺に「部下としてタカナシはどうだ?」と薦めたシバタ課長も何を考えているのやら。
 そのタカナシは、アンパンの袋を丸めてゴミ箱に捨て、二百ミリリットルの牛乳パックをストローで啜った。壁掛け時計は午前十時を回ったばかりだ。
 昼食にしては早いな、という俺の視線を読んだタカナシが、「今朝、食べる時間なかったんです」と言った。
「ところで、鑑識課はなんて言ってました?」
「お前の予想通り。紙片から前科のない二つの指紋も検出された。あとこの紙、個人的に欲しいとも言っていたな」
 得意そうな顔をするタカナシを横目に、俺は鑑識課から持ってきた二枚の写真をデスクに置いた。
 一枚目に写っているのは、顕微鏡で見た雪の結晶、もしくはどこかの地表を撮った白黒写真――を印刷した、A4サイズのコピー用紙。二枚目はその裏面。現場に散乱していた紙片を、我が警察署の鑑識課がかき集め、復元したものだ。
 事件は昨夜。閑静な住宅地に建つ、アパートの一室で起こった。

 第一発見者は隣室の住人。「隣室から二人が言い争うような声が聞こえ、ドアが激しく開いた音と、何かがぶつかる音が数回あった。音が収まったところで隣室へ行き、開いていたドアから女性が倒れているのが見えたので通報した」と証言している。
 被害者の女性は、その部屋の住人であるニシムラ・ハナ。年齢は三十一歳。三つ年下の実弟、ニシムラ・リュウジと同居しており、リュウジは昨夜から行方不明となっている。
 被害者は頭を強く打ち、現在は意識不明で入院中。数名の捜査官が被害者の警備にあたっているものの、今のところリュウジらしき男が現れたという情報はない。
 他の住人達に話を聞いたところ、二人は二年前にアパートへ入居。両親が他界し、生家を売り払った後、発達障害を持つ姉を気遣った弟と一緒に上京してきたらしい。毎朝被疑者の車で出勤する二人の姿も目撃されていた。「とても事件が起きる雰囲気はなかった」と、住人達の驚く顔が頭に残っている。
 しかし、被害者が夏でも長袖やカーディガンを羽織っているのが気になっていたという証言と、被害者の体から、ごく最近の、古くても数週間前の、打撲痕や切り傷の痕が数カ所認められた。
 そのことから、『被疑者は、被害者の面倒を見ることに対して日頃からストレスを溜めており、時折被害者に暴力を振るっていた可能性』と、『事件当夜、障害のことで被害者と口論になり、衝動的に暴力を振るった被疑者は我に返り、そのまま失踪した可能性』を視野に、引き続き被疑者の行方を追うことになった。

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