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遥飛蓮助の一次創作ブログ
2016/12/07/Wed
これはあくまでも可能性の話であり、どれもその範疇を超えてはいない。平常時の被害者は温和だが、パニックを起こすと、自傷行為や物にあたることがあるらしいと、大家が入居前の被害者から説明を受けたことも分かっている。
 普段から気配りのできる人間が暴力行為など、それこそ短絡的だ。
 聞き込みが終わった後、俺が無意識に零していたと言ったタカナシが、「そういう人間だからこそ、ストレスが溜まりやすいんですよ」と、生意気な口を叩いたのを思い出した。
 いや、生意気でもなんでもないかもしれない。『発達障害』や『脳機能障害』などの単語を耳にする機会が増えたとはいえ、偏見や差別的な目を向ける者は多い。発達障害者に該当しない俺やタカナシでさえ、理解の及ぶところではない。
 頻繁に暴力行為が行われていたのであれば、もっと前に隣室の住人から苦情が出ていたかもしれないし、事件当夜に限定された暴力にしては打撲痕や切り傷の痕が多い気がするし。
 どれも可能性の範疇を超えてはいない。結局のところ、これ以上の手がかりがない。早くもお手上げ状態だったのだ。
 タカナシが紙片を見て、「思い当たる節がある」と口走るまでは。

「被疑者がどこに行ったか、知ってますかね?」
「それをこれから確認しに行くんだろうが」
 なら『思い当たる節がある』なんて、ドラマみたいな台詞を口に出すな。生意気な部下に言ってやると、部下は苦笑しながら「ですよねー」と来たもんだ。だから俺は部下を持つのは嫌だったんだ。
「でも意外でした。ホズミさんだったら、『いるのかいないのか分からない相手に時間を取られたくない』って突っぱねられると思ってたんですけど」
 そう言っていられないことぐらい、タカナシも分かっているはずだ。だからこその軽口であると察した自分が恨めしい。
「馬鹿っ。俺は、課長がいつ『被疑者が見つかれば解決する事件だろ。とっとと被疑者を捜してこい』と言い出すか心配なだけだっ」
 つい声を荒げてしまった俺に、タカナシが二回目の苦笑と「ですよねー」をお見舞いする。こいつとの会話は、まるで掌で転がされている球になったようで気分が悪い。
「じゃあ、住所調べますんでちょっと待ってください」
「時間が惜しい。先に行くぞ」
 俺はデスクに置いた写真をポケットに突っ込むと、自分のコートを手に立ち上がった。
「え? ちょ、ちょっと待ってください! ホズミさん!?」
 声をひっくり返すタカナシも、後から俺の背中を追ってくるだろう。
 もし被疑者がタカナシの言う『ストレスの溜まりやすい』人間だとしたら、衝動的な行動で被害者に暴力を振るったことに罪悪感を感じ、こちらの捜索しづらい所まで行く可能性もある。
 タカナシではないが、俺も復元した用紙を見た時から、『事件は誰かが呼ぶのではなく、何かに呼ばれるものだ』と、どこかで聞いたような言葉が頭をよぎった。俺もタカナシも、あいつも、今回の件に呼ばれるべくして呼ばれたのかもしれないと。
 だからこそ、俺とタカナシ以外の刑事に、あいつを会わせたくないと思った。
 世間の片隅で、ひっそり生きていてほしい人間を、無関係な事件に巻き込むわけにはいかない。不必要な苦しみは、あいつに届く前に食い止めたい。
 被疑者も同じ気持ちを抱えて、毎日被害者を過ごしていたのだろうか。ならどうして、被疑者も俺も、こうなってしまったのだろうか。
 警察署から出た辺りで、息を切らしたタカナシが「先に行くなんて酷いじゃないですか!」と苦言を呈した気がしたが、おそらく気のせいだろう。

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