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遥飛蓮助の一次創作ブログ
2017/01/18/Wed
「夢原涙子。ニシムラ・リュウジについて聞きたいことがある」
 顔見知りの相手に警察手帳を突きつけて、この言葉を口にするとは。タカナシに言った「ドラマみたいな台詞を口に出すな」という自分の発言が、ブーメランのように突き刺さった。
 しかし、俺が目を細めて眉間に皺を作ったのは、夢原の放つ存在感に目がくらんだのではなく、薄暗い階段を下りた先に広がる、白く無機質な事務所が眩しかったからだ。
「はい。なんでしょう、おじ様」
 自分に言い訳をしている俺を見透かすように、夢原は『おじ様』に向かって微笑んだ。夢原は言葉さえも、最初から打ち合わせしていたことを匂わせるように言いやがって、無性に腹立たしかった。
 こんな面白い状況を、タカナシが黙って見ていなかったのもさらに腹立たしい。
「え!? ホズミさんっ、『夢原涙子』と親戚なんですかっ!?」
 タカナシのひっくり返った声を、真横から受けるとは思わなかった。狭い空間を乱反射した声が耳に刺さる。
「うるさいっ。刑事が重要参考人の前で騒ぐなっ」
 俺は少しだけ声を荒げ、タカナシを叱咤したが、それが逆効果であることを数秒後に思い知った。物珍しそうな顔をした夢原が、タカナシに話しかけたのだ。
「あら? 刑事さん、もしかして私のことご存じなんですか?」
「当たり前ですよ! 俺の世代で知らない奴なんていませんて」
「ふふっ、それは光栄です。改めまして、私がトポグラフ・マッパー。またの名を、夢原涙子です」
「うわっ、本物だ。あ、後で一緒に写メ撮っていいですか?」
「あー、すみません。写真撮影はNGなんですよ」
「そうなんですか。じゃあ代わりにサインを、」
 俺が無言の圧力を放つと、タカナシは夢原から顔を背け、夢原は持っていた分厚いファイルで顔を隠した。
 二人のやりとりを見ていて思ったことだが、常日頃タカナシの態度が腹立たく感じるのは、どこかで夢原に似ているからだろう。ということは、タカナシを見る度に夢原のことも少なからず思い出してしまうのか。今までで一番気付きたくなかった。
「あのー、ホズミさん? どうかし、」
「なんでもない」
 無意識に出た嘆息をかき消すように、タカナシの言葉を遮った。遮って、それぞれに念を押す。
「いいかタカナシ。重要参考人には被疑者のこと以外聞くな。夢原も、刑事には被疑者のこと以外喋るな」
 タカナシは肩を竦めて返事をしたが、夢原は返事を返した後、小さく笑みを零した。さすがの俺も、夢原に「笑うな」なんてことは言えなかった。
 俺はなんとも言えない気持ちを奥歯で噛み殺し、警察手帳と入れ替わりに写真を取り出した。一枚目は『トポグラフィー・マップ』と呼ばれる、人の涙から作られた地図が写った写真。二枚目はその裏面――事件前日の日付と、ローマ字で『ルイコ・ユメハラ』と書かれている。
「夢原。改めてニシムラ・リュウジについて聞くぞ」
「はい。分かりました」
 夢原はか細い両腕で分厚いファイルを抱え直し、俺を見上げて微笑んだ。
 本当に、どこまでも腹立たしい。

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