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遥飛蓮助の一次創作ブログ
2017/01/18/Wed
確かにニシムラ・リュウジは、夢原を訪ねて、マップの作成を依頼した。事務所を閉めようとした際、滑り込みで入ってきたらしい。
「夜の十一時を回っていましたね。『自分の気持ちを確かめたい』と仰っていました。そうでしたか。やっぱり朝のニュースの方でしたか……」
 応接用のテーブルを挟み、俺とタカナシは夢原と向かい合うようにソファに腰掛けた。タカナシが夢原に質問し、俺は夢原に変化がないか観察する役に回った。
 夢原は、髪を頭頂付近でまとめ、ピンクのツナギを着た少女の姿をしながら、背筋を伸ばし、タカナシの質問に淀みなく応じていた。大人に負けないよう背伸びをしている子どもにはない、それこそ『大人の余裕』というものが、夢原から滲み出ている。
 トポグラフ・マッパー夢原涙子。人の涙からマップを作り、悩める人々の手助けをする存在は、匿名掲示板から日々発信されており、夢原の情報に限らず、ネットの海には毎日新しい情報が流れ込み、古い情報は流されている。
 タカナシの反応を見るに、夢原は『トポグラフ・マッパー』としての知名度が高いように思われる。しかし一部では、『夢原涙子はパソコンが一般家庭に普及し、ネット社会が構築される以前から存在する』説を唱える者がいた。
 いわゆる、夢原涙子という『個人の都市伝説化』である。
 ウン十年前から小学校五、六年生の姿で生きているという噂。成長しない夢原を周囲が訝しむ前に転居するという噂。没落した貴族の末裔にして、深窓の令嬢という噂。
 噂の後ろに噂がくっつけば、遠くない未来、大群になって夢原を押し潰さないだろうか。それだけが心配――いや、夢原の信奉者を名乗る過激派思想の者まで現れる可能性を考えて、『心配』という言葉を選んだのだ。けして夢原の身を案じてのことではない。
「『自分の気持ちを確かめたい』と言っていたんですね。夢原さんにマップの作成を依頼する方って、依頼内容が抽象的な表現をしてますよね。意味深というか」
 俺が自分を納得させている間も、タカナシと夢原の一問一答は続く。
「そうですね。ニシムラ・リュウジさんについては、駆け込みでやってきた方だったので、急ぎのご用時があるかと思っていたんですけど、対応は落ち着いていて、不思議なくらい普通でした。いえ、普通というより……確信を持って、私にマップを依頼してきたという感じでした」
「確信を持って? 『自分の気持ちを確かめたい』という依頼内容について、ということでしょうか?」
「ええ。確信を持っていて、でも明確な形にするためにマップの作成を希望したのではと。形にしなければ分からないこともありますから」
 そこまで言ってから、「あ」と思い出した顔をした夢原は「すみません。ニシムラ・リュウジさんにお渡ししたマップのコピーがあるのですが、ご覧になりますか?」と尋ねた。タカナシが俺を見たため、促すように頷いた。
 タカナシからも「お願いします」と促された夢原は、分厚いファイルの一つを取り、テーブルに置いて開いた。今まで依頼を受けた客のマップのコピーがきちんと整理されており、日付順に付箋を貼って整理された。

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