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遥飛蓮助の一次創作ブログ
2017/01/18/Wed
どれひとつとっても同じ模様はなく、見ているこちらが目移りしそうなほどだった。俺が目を瞑って目頭を押さえると、夢原の小さく微笑む声が聞こえた。反対に、タカナシはまた騒ぎ出す。
「すごいですね! これ全部今まで依頼を受けて作成したマップですか?」
「ほんの一部です。マップは、一つとして同じ模様や風景のようなものは出てきませんから、定期的に整理してはいます」
 つまり、その人のために作られた、世界に一つだけのマップ。それを被疑者はバラバラにして現場にばらまき、姉も置いて失踪した。その理由にはまだ至っていない。
「確かマップは、涙を流した本人にしか読めないんですよね?」
「はい。私はあくまでも作り手ですし。『涙を流した本人にしか読めない』という抽象的な説明もさせていただいているのも、ご自分の気持ちを形にすることで、見えてくるものもあるという意味も含まれています」
 夢原が先ほど言った「形にしなければ分からないこともある」というのは、そこから来ているのか。ほぐした両目を開け、改めてファイルに入ったマップを見た。ちょうど、被疑者のマップにたどり着いたところだった。
「お二方は、最初にこのマップを見て、どう思いました?」
 夢原は俺とタカナシを見据えて言った。「分からない」以外の返答を希望しているようで、夢原自身も、自分の口から「分からない」以外の答えを出そうと、じっとマップを見つめた。
 俺には新芽なのかモヤシなのか、とにかく細長くてひょろっとしたものが地面から伸びる様子に見えた。二人に伝えると、タカナシは、「俺もそう見えますけど、縛られていたものに解放されたような感じにも見えます」と言った。
 ニシムラ・リュウジはなにかに解放され、その気持ちを確実なものにするためにマップを作った。では何から解放されたのだ。解放といえば、真っ先に発達障害の姉の世話が上がった。
 であるなら、状況は最悪だ。被害者は弟である被疑者に捨てられ、失踪した被疑者は開放感に満たされ、どこかでのうのうと生きていることになる。それがもし真実なら、俺は被疑者に、刑事として冷静に接することができないかもしれない。
 奥歯を噛み締めてソファから立ち上げると、タカナシの慌てた声が聞こえた。
「ホズミさん、ここに来てからちょっと変ですよ。どうかしたんですか?」
 察しの良い部下を持って俺は幸せ者だ。さらに奥まで察したように見えて、また気分が悪くなった。
 俺もさっきと同じように「なんでもない」と返し、まだ答えを出していない夢原に話を振った。
「夢原。お前の見立てはどうなんだ?」
 俺か、もしくはタカナシと同じか。何十人もの人間と出会ったトポグラフ・マッパーは、真剣な眼差しで俺を見上げた。
「開放感に涙しているように見えますが、それに対する高揚感が感じられません。それどころか、もの悲しさすら感じます」
 言い切る夢原の目は確かにプロのそれで、俺は目をそらさずにはいられなかった。
 ニシムラ・リュウジが確かめたかった思い。それぞれの答えが被疑者の心を正しく捉えていたかどうか。
 確証はまだ、ない。

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