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遥飛蓮助の一次創作ブログ
2017/01/26/Thu
驚くような、息を飲む音がした。俺は無視して質問を重ねる。
「それで、あなたはどう答えましたか?」
 俺の質問に、被害者は力なく項垂れた。
「そんなことっ、言われたことなくて……なんて、答えていいかっ、分からなくて。頭の中が真っ白になっていたら……リュウちゃんが、持っていた紙を破って、出て行っちゃって……あたしっ、なにがなんだか分からなくて! またパニックになって、気が付いたらここで寝てて……」
 隣室の住人も証言していた。ドアが激しく開いた音と、何かがぶつかる音が数回。ニシムラ・リュウジが部屋を飛び出した音と、パニックになった彼女が、自傷行為や部屋の物にあたった音。
「弟さんが紙を破り捨てた後、あなたと弟さんは、なにか言いませんでしたか?」
 隣室から聞こえたという、二人の言い争うような声。たとえば、パニックになった彼女が口走った言葉を、ニシムラ・リュウジが否定して叫んだとか。
 俺の質問にハッとなった彼女は、顔をくしゃくしゃにして涙を流した。
「あっ、あたしなんてっ、あたしなんて生まれてこなきゃよかったのに! お父さんにもっ、お母さんにもっ、リュウちゃんにもっ、迷惑かけなかったのに! でもっ、リュウちゃんに、『そんなこと言うな!』って、言われてっ……あたしっ、リュウちゃんから、愛してるって言われてっ、嬉しかったのに……どうしようっ、リュウちゃん……」
 俺は、この日初めて深呼吸をした。肩の力を抜くように、やはりそうだったかと、自分で自分に納得するように。
 彼女に付き添っていた看護師に謝罪すると、踵を返して病室を後にする。後からタカナシの足音が追ってきた。
「ホズミさん。あのっ、被疑者が加害者に伝えたことって」
「タカナシ。もうあの二人を被疑者だの加害者だのと呼ぶな。これは事件じゃない」
 やっぱり事故ですねっ、と言うタカナシの声が自然と弾んでいた。これは事件ではないが、今は精神面苦痛を与えられたことから、傷害事件に発展する場合もある。それも、二人が話し合って決めることだ。俺達は裏方に回って動いていればいい。
「あとはニシムラ・リュウジが戻ってくればだが」
 俺がエレベーターの下ボタンを押すと、タカナシが「捜さなくていいんですか?」と聞いてきた。
「ドラマであるだろ。犯人は、必ず現場に戻ってくるってな」
 別に対したことを言ったつもりはないのだが、タカナシから拍手をもらってしまった。

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