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遥飛蓮助の一次創作ブログ
2017/01/29/Sun
「ヒサヒコ。姉さんを愛してくれてありがとう」
 姉さんが俺の名前を呼んだだけで、今度は心臓が跳ね上がった。俺が言うべき台詞を、姉さんは俺の代わりに代弁した。
「本当は、家族みんなに愛してほしくて、みんなと家族になりたかった。でも、頑張れ頑張るほど、お母様は私を突き放した。そうすることでしか、自分の癒すことができないと、頑なに思ってらっしゃったわ」
 姉さんは、物心付く前から、自分が望まれて生まれたわけではないことを知っていた。親父に置いていかれてからは、お袋から愛されたがっていた。そのためにならどんなこともした。その努力を、兄貴と俺は知っている。
 だがお袋は姉さんを憎み、兄貴が倒れてから、一層その憎しみを深くしていった。それでも姉さんはお袋から愛されたかった。親父に裏切られ、傷ついたお袋を愛したかった。
「お兄様とヒサヒコは私を愛してくれたけど、お母様は一人ぼっちだった。当たり前よね? 私がお母様を傷付けたのだから。家を出てからは、罪悪感で頭がいっぱいだったわ」
 姉さんも俺と同じように、悔いを残してあの家を出た。取り戻せない時間を、残りの時間に費やした。
 だが姉さん、と俺は声を絞り出すように言った。
「そんなことしたって、終わった時間は取り戻せない。第一、姉さんが生まれたのだって、元々は親父のせいだ。親の責任を、子どもが償う必要はないんだ」
「そうね。姉さんも、だいぶ後になって知ったわ」
 だいぶ後。大人になってから、という言い方を避けるように、姉さんは笑った。笑って、俺を見上げた。
「だから私には、『夢原涙子』が必要だった。私が私として生きるためには、『夢原涙子』にならなければいけなかったの」
 姉さんは吹っ切れたように言うが、そこに至るまで、姉さんはどれだけお袋のことで胸を痛めたのだろう。俺の想像を超えるものだったのかもしれない。
「あの時、『生まれてこなければよかった』なんて言ってごめんね。大丈夫。もう心配いらないから」
 まるで惜別の言葉だ。そう言って離れようとする姉さんの頭に、俺は軽く手を置いた。
「馬鹿。心配いらないって言ってる奴が一番危ないことぐらい、お前だって知ってるだろ」
 驚いた顔の姉さんを久しぶりに見た。俺だって驚いている。でも、今だから言える言葉を伝えたかった。

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