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遥飛蓮助の一次創作ブログ
2014/10/10/Fri
 足がもつれる。服の下で汗が滲む。息を吸うのもままならない。
 俺は息を吐きっぱなしにして、ひたすら大通りを走っていた。
 灯りと一緒に眠ってしまったような、風のない夜だった。冷たい空気に包まれた体が熱い。鼻の奥がひんやりして痛い。脇腹が痛い。足も痛い。全身痛い。そういえば壊した貯金箱の破片が手に刺さったっけ。刺さったのは覚えてるんだけど、痛かったまでは正直覚えてない。
 でも、本当に刺さったどうかなんて見てられない。走れ。走れ。もっと早く。もっともっと早く!
「すっすすすみませんっ!」
 唯一灯りのついた店の前で急ブレーキ。つんのめりそうになりながら、店員のお姉さんに向かって大声を出す。
 驚いた顔のその人が何かを言う前に、両手に握った全財産を突き出した。
「あの、『夜空に咲く華』ください!」
 夜中の花屋の都市伝説。
 そこで売っている、夜空に咲く華の話。
 夜空に昇る月の光と、夜空に瞬く星屑が散りばめられた、一夜の夜の夢。
 都市伝説の店を発見したことも、その華が本当にあるかどうかなんてことも、今はどうだっていい。それより大事なことがある。
 「俺の彼女、親の都合で転校するんです! 前から『夜空に咲く華』がすげー見たいって言ってたんですけど、俺、そんなもんねーよって言って、なんかよく分からねぇけど、ムキになって喧嘩になって……」
 転校するって、一言も言ってくれなかった。打ち明けてくれたら、あんな馬鹿みたいな理由で喧嘩しなかったのに。
 情けなさが涙と鼻水と一緒にこみ上げてきた。店員のお姉さんの顔が滲んで見えない。
「だから、だから! あいつが見たがってた華を見せて、仲直りしたいんです! お願いします! これで足りなかったら俺、バイトして花代返します!」
 お願いします。お願いします。何回言ったか覚えてない。全財産が手の中に食い込むくらい握り締めて、何回も何回も。
 ついに土下座までしかけた時「そこまでしなくて良いわ」と、お姉さんに止められた。
 今夜の分は売れてしまったことを前置きして。

 紫色になってきた夜空。
 この時間をマジカルアワーといって、例の華が一番見頃らしい。「華を持って、朝日が昇る前に彼女の家に行ってサプライズするのもアリじゃない?」と、悪戯っぽく言ったお姉さんを思い出す。
 全財産を握り締めていた両手に包帯を巻いて、また大通りを走る。走る。走る。
 なんだかさっきより体が軽い。息も絶えだえで、必死になって走っているのは同じなのに。
 あるわけないと馬鹿にして、後悔して、不安になって、あると思ってなかった物が、走った先に必ずあるって分かったからかな。
 でも、今はどうだっていい。あいつと仲直り出来るなら、いくらだって走ってやる。
 俺は柄にもなく「うおおおおお!」なんて叫びながら、マジカルアワーを駆け抜けていった。

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