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遥飛蓮助の一次創作ブログ
2015/02/15/Sun
(思いきり時間超過しましたorz)


「あなたのことがすきです!」
 つきあってください、の常套句はいい加減聞き飽きた。
 両手でチョコを差し出す相手を壁まで追い込むと、両手を壁に付けて逃げ道を塞ぐ。すると相手はたじろいだり焦るばかりで逃げないし、決まって私の顔を見上げて頬を赤らめるのだ。
 嗚呼、なんて君たちは馬鹿なんだ。チョコを手放せば簡単に逃げられるのに。お決まりのシチュエーションで酔うなんて本当に。
 顔を近付けると、相手の額に唇を押し付けて、次は切なそうな顔で囁くんだ。
「ごめん、君とは付き合えない」
 そうですよね。ごめんなさい。わたしとせんぱいじゃあつりあいませんよね。これからもおうえんしてますから。
 いろんな言葉が私の横をすり抜け、空き教室から廊下へと駆けていく。私は相手の気配が消えるのを待ってから、両手を壁から離した。
 あと何回、このシチュエーションに立ち会わなきゃいけないんだろう。そう溜息を付いた瞬間。
「おーじさまは、今年も大忙しみたいだね?」
 声。心臓の高鳴り。見開く目。勢い良く振り返ると、頬に相手の人差し指が刺さった。
「肩ぽんしてないのに引っかかる人っているんだねー?」
 ニシシ。ボサボサ頭に長い前髪。その下から時折こちらの様子を伺う雀斑。口元を引き伸ばした癖のある笑みに、私の心臓は平常心を取り戻している。
「見てたのか」
 動揺を気取られてはいけない。突き放すように言い、突き放すように相手の手を払い除けた。
「たまたまだよー。たまたま、学校を散歩してたらー、イイふいんきだったもんで」
 進級して、同じクラスになった時の印象は、芯のない鉛筆。のらりくらりと体を左右に揺らすと、前髪の下から私を眺める目が見えそうになる。何色をしているんだろうと、いつも不思議だった。
「失礼だぞ。それに、ふいんきじゃなく、雰囲気だ」
「あっは、そうだっけ?」
 あたし頭悪いからさー。ケラケラ笑う道化を演じているのだと思ったのは、隣の席になってからだった。
「ていうかさー。毎年ああいう子に付き合って、正直飽きてんじゃないの?」
 人を食ったように笑いながら、人を嘲笑うように口にするものの、それを周囲に振りかざしたことはない。私以外、では。
「まさか」
「嘘!」
 私が鼻で笑って否定しても、相手は的の真ん中めがけてダーツの矢を放つ。
「うっそうそうっそー。全部嘘ー。おーじさっまはっうっそつっきだー♪」
 突き立てた矢をぐりぐりと抉り、面白おかしくに節を付ける。
「もうイイじゃんかよー。なんで毎年付き合ってあげんのー?」
「それは」
 言いよどんだのは思わず半分。敢えて半分。視線を壁に向け、視界から相手を消す。
「言わないなら当てちゃうよー?」
 こうすれば、相手は私の視界に入り込み、私の視線を奪ってくれるから。それを悟られないように苦々しい顔を作り、目をつぶった。
「言うな!」
 言って。お願い、早く、その矢で、トドメを。

「……やっぱいわなーい」
 床を擦る上履きの音が、矢の落ちる音に聞こえた。
「え」
 目を開けるのと同時に、疑問符にもならない声が胃から這い出て喉を伝う。さっきまで私の視界を奪った相手がいない。
 声は、後ろからだった。
「キャッハハハ、驚いた?」
 小粋の良い笑い声と、扉が開く音。振り返りたくても出来ない。私の顔は今どうなってる?
「おっと、驚いて今度は振り返れなくなったとか?」
 どんな顔してるか見たかったなー。立ち尽くす私の背中めがけ、投げられるのは矢ではなく。
「でもさー。いくら予行練習だからって、手当たり次第とかなくない?」
 矢よりも柔らかく、温くやわく丸めたティッシュ。
「おーじさまイメージ崩したくないあまりにってヤツかもだけど、よけーにファン増やしてどーすんですかー?」
 当たっても傷が付かない。誰も気が付かない。丸めたティッシュが、ゴミ箱の縁に当たって散乱する。
「まーイイけどー。君がそれで満足してんならー」
 相手の声が遠くなる。私の視界がぼやける。
「せーぜー、楽しんでちょー♪」

 膝から崩れ落ちると、視界を覆っていた膜が剥がれ、涙がとめどなく溢れた。上唇に垂れた鼻水が口に入って、袖で脱ぐ力もない。
 なんで、言ってくれなかったんだろう。ファンの子で予行練習していることも、いつも相手がこの教室の前を通る時間にしていることも、あの子が私に、私だけに向けてくれる言葉に、仕草に、どれだけ舞い上がっているのかも、全部全部、相手は知っているのに。
「ひっく……ば、か。ばか、ばかばかっ」
 理由なんて、最初から分かってた。相手に惑わされるひとときに酔って、相手の気を引くための芝居に酔って、白馬の王子様を待つお姫様に酔った私が、馬鹿だから。
 馬鹿で馬鹿で滑稽で、道化にも劣る馬鹿だから、相手は言わずに笑ったんだ。
『キャッハハハ、嘘つきおーじさまが、おひめさまになれると思った?』
 相手の笑い声が頭に響く。それさえも愛しくて、痛くて、苦しくて、切なくて。

 早く、早くその矢で私を。私の心臓を抉って。
 ねぇ、王子様?

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