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三、誰がタルトを盗んだか②

『ねえねえ、いつにする?』
『うーん、おとなになってからかな』
『そんなに待てないよ。十六歳にしよう』
『じゅうろくさい?』
『うん。十六歳になったら……それまで誰にも言わないでね。二人だけの秘密だよ?』

「タカトシくん?」
 夢から覚めた直後の気だるさが、僕の体にのしかかる。夢原さんを見つめたまま、意識が飛んでいたようだ。汗が額から頬を伝い、マップの上に落ちて滲む。
「ゆっ……ゆめ、はらさっ、ゆめはらさんっ、ゆめはらさんっ!」
 喉がすり切れたように熱く、絞り出した声に涙が混じる。どうしよう。息苦しい。苦しい苦しい苦しい苦しい助けて助けて怖い怖い怖い怖い怖い!
 涙で夢原さんの顔が滲む。浅い呼吸を繰り返す背中に夢原さんの手が回り、もう片方の手を、マップを握る僕の手に重ねる。
「タカトシくん。だいじょうぶですよ」
 涙の断片が剥がれると、夢原さんの顔が見えた。泣きじゃくる子供をあやすように、僕を見つめる目はまっすぐで、とても優しかった。
「だいじょうぶですから、思いっきり泣いてください。タカトシくんが泣き終わるまで、そばにいますから」
 そんな。大丈夫だなんて、僕にそんな言葉をかけないでください。僕はあなたに、嘘をついたのに。許してもらえるかもしれないなんて、期待してしまうじゃないか。
「ゆめはらさ、ごめん、なさ、ごめんなさっ……」
 手からマップが落ちると、指を絡めて彼女の手を握った。小さくて柔らかい弾力にすがるように、強く。強く。
「ぼくがっ、ぼくがわるいん、ですっ……ぼくが、ぼく、が……っ」
 僕が、アヤちゃんを殺したんだ。

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